しでんのファクトリー(巻き舌)

平凡な家電製品の平凡な日記なんてなかった、いいね?割と身内ネタ多めです

第三話『空の穴』

霊夢「…なるほどね。」
現在スズランメンバーのいる『博麗神社』の巫女、「博麗霊夢」は、顎に手を添え、ユキの説明を黙って聞いていた。
霊夢「つまり貴方の話をまとめると、
『昨晩まで元の世界にあったスズラン荘が目覚めたらこの博麗神社に建っていて、どうしようもなく立ち往生してる時に私と遭遇した』。
こういうことで良いのかしら?…ええと…」

 

 

ユキ「ユキ、ね。まあそういう事になる。」
片手を腰に当て、もう一方で銃剣を握るユキ(本人の希望に添い、読者の皆様には「某マーボー神父」の姿と声で脳内変換して頂きたい。)が頷く。
ユキ「この世界に突然呼び出された理由も不明、
ましてや元の世界に戻る方法も不明。
どこもかしこも八方塞がり、完全に詰み。ダメだこりゃ。」

 

ながさん「ちょ、ちょっと!まだ脱出不可能って決まった訳じゃないじゃん!?」
GAME「まだこの世界に引きずりこまれた原因が分からない限りはまだ不可能と断定するのは難しいだろうに。珍しく弱気だな、ユキ。」
ながさんとGAMEが反論する。
アステル「まぁ、確かに原因が分からないようじゃこっちも何すりゃ良いのか分からないしな。現状はほぼ詰みに近い事は確かだ。」
ゼク「『詰みに近い』、だけだろ?
つまりまだ詰んでない。俺らに出来ることはまだあるハズだ。やる前から詰み詰み言ってるんじゃ脱出なんて夢のまた夢だろ。」
アステルにゼクが反論する。
アステル「ならその『出来ること』を言ってみてくれよ。今の俺には出来ることなんて思い付かないからよ。」
今度はゼクにアステルが反論し、もう今にも取っ組み合いが始まりそうな程両サイド同士の空気はギスギスしていた。
Sin「ち、ちょっとケンカなんて止めようよぉ…」
取っ組み合いになるのはマズいと感じたのか、Sinが両サイドの仲裁に入る。
しかしギスギスした空気は変わらない。

 

霊夢「…原因…ねぇ。
アテがあるっちゃああるんだけど。」
先程から何か考え事をしていた霊夢が口を開いた。
GAME「本当ですか?霊夢さん。」
霊夢「ええ、まぁね。」
霊夢は最低限の返事だけ返すと、何もない空間を忌々しそうに睨み付けた。
霊夢「…で?居るんでしょう?紫。」
霊夢が呟く。
すると、それに応えるように
「本当に何もない空間から」黒い裂け目が現れた。
住人全員が突然現れた「それ」に驚く暇も無く、
「ポンッ」と可愛らしい効果音と共に裂け目の両端にリボンがあしらわれる。
だがそれはその裂け目をさらに異質な物に仕立てあげる手助けをするのみだった。
さらにその裂け目が目玉のように横に開き、その奥から人が現れた。
紫「呼んだかしら?霊夢。」
霊夢「はぁ…また貴女?」
紫と呼ばれた霊夢よりも大分背の高い女性はとても荘厳、かつ怪しげな雰囲気を纏っており、うかつに近付けば何が起きるか分からない。
そんな感じだった。
紫「なんの事かしら?私は何もしてないわよ?」
霊夢「とぼけないで。」
見下ろされているからか、それとも紫が思ったような反応では無かったからか。
霊夢は思い切り紫を睨み付け、かなりキツい口調で言い放った。
しかし紫は微動だにしない。
霊夢「この人達とこの建物。
呼び寄せられるのは貴女位。
貴女が今度は何を企んでるかは知らないけど、さっさとこの人達を戻してあげなさい」
腕組みをしながら霊夢が続ける。
霊夢「そもそもここ最近、外の世界の人間じゃないと解決できないような『異変』は無いじゃない。良からぬ事を企んでるようなら容赦はしないわよ?」
霊夢がひとしきり言い終わると、紫は大きくため息をついた。
紫「…一体何を勘違いしてるのか分からないけど、とりあえず今回は本当に私じゃないわよ?私自ら呼び寄せたなら貴女に呼ばれなくても出てくるわよ。」
霊夢の熱弁にも紫は全く動じず、冷静に言葉を紡ぐ。
霊夢「じゃあ貴女以外に誰が…」
紫「さらに言うと、今回のは誰でもない」
霊夢「…?」霊夢が一人首を傾げる。

 

ながさん「…あのー、お二方?
一体何の話を…」
紫電「なぁせっかくシリアス全開な所悪いんだけどさ。」
しろあき「俺らが落ちてきた所って…」しろあきがゆっくり指を対象へと動かす。

 

紫「多分、あの穴ね」
白秋「あの穴じゃね?」

 

「「「ッ!!」」」
白秋と紫が示す方向に導かれるまま、それを見た全員は驚愕した。

 

雨雲1つ見えない真っ青な晴天。
…その一部分に、まるでガラス窓が割れたかのような大穴が空いていた。問題はそこではない。
ぽっかりと空いた大穴。
その向こうには、赤黒い血のような空間が蠢きながら広がっていたのだ。
はり「…何、あれ」
ゼク「おいおい、ヤバいだろあれ…」
住人全員が驚きを隠せなかった。
二牙「おいお前ら、あの穴いつから…って」
白秋「あんたらがシリアスに論争してる辺りかな?」

 

さっきまで全く会話に入っていなかった紫電と白秋。
何をしているのかと思いきや、

 

思い切りおやつタイムに入っていた。
ゼロ「…お前ら何してるん?」
紫電「おやつタイm」

 

GAME「何やっとんじゃお前らぁぁああ!!」
突如、GAMEの怒号が飛ぶ。
GAMEの マーシャルキック! クリティカル!
紫電に 93の大ダメージ!
白秋に 79の大ダメージ!
紫電は怯んで動けなかった!
白秋は怯んで動けなかった!
紫電「かはっ…い、いやね、シリアスしてて俺らの入る隙がね、無かったもんでね」
GAMEの渾身のマーシャルキックがモロに入った紫電は腹を、
白秋は右のスネを押さえて悶えていた。
紫電「だ、だからね、論争終わるまで菓子食ってようかって事でおかsおふぅっ!」
二牙「やかましい」
二牙の蹴りが再び紫電を襲う。
はり「いや君らのせいでシリアス何処かに吹っ飛んだから。」
はりの容赦ないツッコミ。
紫電「あの…いやほんと…サーセンした…」
白秋「フッ、フフフ…」
突然白秋が笑いだす。
白秋「ヴァカめ…この俺達がシリアスできるとでもってうわぁああナマ言ってサーセンしたはりさぁあん!!」
首に突き付けられたナイフとはりから放たれる無言の圧力と殺気のコンボで、
白秋はまた一気にうずくまってしまった。
本物とそのドッペルゲンガー(正確には只のユザネ被りだが)だからか、
二人とも似たような格好で震えていた。
なんというか情けないを通り越してダサい。

 

ユキ「はぁ…。さて、話を戻そうか。
白秋、喋れるかい?」
白秋の傍にユキが膝をつき話し掛ける。
白秋「お、おう。なんとかな…」
そう言って白秋は立ち上がる。
まだスネのダメージが残っているのか、
右の足はガクガクと震えていた。
白秋「ところで紫電はー…まだ無理か。」
二牙「さっきの俺の蹴りでノックダウン中。」
紫電は未だに腹を押さえてうずくまっている。
「オェッ…ヤバいこれ…ヤバい…吐く…」と嗚咽を漏らしているが、もはや誰の耳にも届いていない。
白秋「…んで?俺は何を話せば?」
ながさん「とりあえずあの穴を監視してた時の報告かな。
何か変な事があればだけど。」
白秋「ああ、そゆこと。んじゃ―」

 

霊夢「な、何よアレ…!」
一方幻想郷サイド、博麗霊夢もこの事態には驚いた。
霊夢「紫、あんたアレいつから…」
紫「たしか3日程前ね。
最初はそれこそ小さくて、真っ昼間から輝いてる赤い星、位にしか認識して無かったわ。」
紫が続ける。
紫「一昨日の夕方、かなり小さかった穴はいつの間にか肥大化していてね。
そこから何かが落ちるのも確認できたわ。」

 

紫電「…あ?一昨日…?」
ある程度回復し、ようやく立てるようになった紫電が何かに気付いた。
ゼロ「何か心当たりでもあるのか?」
紫電「たしか一昨日はHNが、
昨日の朝はHN含む何人かが部屋の家具がいくつか無くなったーって騒いでたよな。
ひょっとすると、あの穴はスズラン荘の敷地内に繋がってるんじゃないか?」
GAME「なるほど、つまりはその無くなった家具が幻想郷に落ちてきた、と。」
霊夢「そして昨日未明、大きくなりすぎたあの大穴に貴方達はスズラン荘もろとも幻想郷に引きずり込まれた…。」
白秋「俺らが見てる最中、穴のはじっこから欠片が落ちるのも見えた。多分まだでかくなるぞ、アレ。」
紫「…これはマズいわね」
紫の顔が険しくなる。
紫「恐らくアレは、博麗大結界ではなく幻想郷と外の世界を繋ぐ境界に直接空いた穴。
このまま大きくなり続けたら、
外の世界の人間がこちらに雪崩れ込んで来る可能性が高い。
貴方達みたいに能力を持っていて、妖怪位ならなんとかなるなら良いけれど。」
チェシャ「それ以外は…?」
紫「幻想郷は人食い妖怪もいれば吸血鬼、鬼と種類豊富な妖怪達が生活しているわ。何の能力も対抗手段も持たない人間が幻想郷に来ればどうなるか。
…ここまで言えばわかるかしら?」

 

ユキ「…僕らみたいな能力者以外は喰われるか殺されて、辺りは即座に死屍累々。生き残るのは能力者と人里に逃げ込めた人達。
…こんな感じですかね?」
紫「そうなるのを覚悟した方が良いわね」
穴を見ていた紫が、突然スズランメンバーの方を向く。
そして静かにこう告げた。
紫「貴方達が幻想郷でやるべき事、それはあの穴の正体を突き止め黒幕を叩く事。
私達も最大限の協力はするわ。
貴方達も、外の世界の大切な人を危険な目には会わせたくないでしょう?」

 

ながさん「…皆はどうする?」
ながさんが紫と目を合わせたまま、スズランメンバーに問い掛ける。
ユキ「…やる事が決まったならそれに尽力すべき、だね」
GAME「あの穴が原因じゃないなら、もっかい紫電と白秋をしばき倒してまた原因探せば良いだけだし。」
白秋「解せぬ」
紫電「えっ」
二牙「ぶっちゃけると早くはりさんとイチャイチャしたい」
はり「最早何も言うまい…」
それぞれ呼応の仕方は違うが、
黙って首を縦に振る者、
各々の武器を構え戦意を見せる者。
ながさんの問いに反する者は誰も居なかった。

 

ながさん「決まりだね。俺達も全力を尽くそう。
俺達の世界と、この世界を守る為に!」
ユキ「これまた超展開なこと。」
二牙「ま、それがスズランクオリティ、ってもんだろ。」
白秋「俺達の戦いはこれからだ!」
スラ「それ最終回に言うべきですがな。」
早くもラスボス前の会話的な雰囲気に包まれていたが、

 

GAME「さて…、目的が決まったのは良いけど。これからどうする?」
GAMEの一言により、速攻で全員が現実に引き戻された。
チェシャ「んー…やっぱ情報収集するのが一番なんじゃないかな?」
スラ「と、言うと?」
ゼロ「ここまで大事となると一般住民の話はアテにはならんだろうな。

 

ゼク「むぅ…。ん?待てよ…」
先程から腕を組み、何か考え事をしていたゼクが、ふと思い出したように顔を上げた。
ゼク「なぁ、紫さん…だっけ?」
紫「紫で良いわ、どうしたの?」
ゼク「さっきあんた、鬼やら吸血鬼やらって言ってたよな。
そいつらに会って話を聞く、ってのは出来ないのか?」
全員が一斉にゼクの方向を振り向いた。

 

霊夢「…貴方本気?何処から来たかも分からない連中とすんなり会話出来るほどお人好しばかりじゃ無いのよ?この『幻想郷』は。」
ゼク「さぁ、な。」
怪訝な表情を浮かべる霊夢に、
ゼクは肩を竦めてみせた。

 

ゼク「武器を持たされて迷いこんだ時点で、少なくとも無傷でこの世界を抜け出せる、とは思ってないさ。
死なない保証も無いし、闘いをけしかけられるのもあるだろうな。
だったら直に俺等の力を示して話を聞けば良いだけの話だ。」

 

紫電「…っべー、ガチでゼクに惚れそうになったわ今」
アステル「やっぱりホモじゃないか」
GAME「お前はどれだけシリアスをぶち壊せば気が済むんだ紫電。」

 

霊夢「はぁ…呆れた。」
そんな外野の会話も尻目に、今度は霊夢が肩を竦めた。
霊夢「まぁ確かに武器を持ってる以上、少なくとも闘う時が来るでしょうね。
とはいっても、貴方たちが闘う相手は少なくとも人間位は軽く捻り潰せるほどの力は持ってるわ。
まずは貴方たちの力を見せて貰わない限りh」
「おぉーい!霊夢ー!!
あっそびっに来ったぜー!!」
突如として響く、霊夢とはまた違う少女の声。
霊夢「…あら、ずいぶん良いタイミングね。」
―その声の主は、空から降りてきた。