しでんのファクトリー(巻き舌)

平凡な家電製品の平凡な日記なんてなかった、いいね?割と身内ネタ多めです

第五話『魔法と電撃、其の二』

「…という訳で俺が相手です…」
若干項垂れながら前に出る紫電
GAMEのマーシャルキックはトラウマとして刻み込まれたらしい。
そんな紫電の鬱屈を知ってか知らずか、紫電と5mほど遠くに立つ魔理沙の調子は変わらない。
「へぇ、あんたが相手か。
で?名前は?」

 


「…紫電…」
「おらやる気出せシデン!」
「マーシャルキック喰らいたいのかー!」
紫電のやる気の無い返事に外野から野次が飛んできた。
そりゃあマーシャルキックは喰らいたくない。
だが別世界に来て最初の相手が魔法使いなんて得体の知れない物と闘いたくないのも事実だった。
「なるほど、シデンね。しっかり覚えとくぜ。
さて、そっちの準備が整ったら始めるけど、大丈夫か?」

 

「…はぁ。まぁいつまでもこの調子でいてもしゃーないしな。
久々にやる気出すか。」
頭をトライデントの柄で殴り、鬱屈した気持ちを無理矢理吹き飛ばす。
そこからポケットに忍ばせていたスタンガンを左手に構え、右手に持っていたトライデントの穂先を魔理沙に向けて臨戦体勢を取る。
「おっけ、準備出来たぞ。」

 

「準備完了だな!んじゃ早速戦闘開始だぜッ!」
箒を横倒しにして浮遊させるとその上にスノーボードの要領で飛び乗り、
一気に高く浮き上がる。
「この瞬間を待っていたんだーッ!!」
「ちょっ…うわぁあっ!?」
ユキやGAMEの予想通り、空に浮かんだ魔理沙目掛けてスタンガンに蓄積させた電撃を放つ。

 

だが紫電のスタンガンから放たれた電撃の束は、間一髪で直撃を免れ、しばらく空を飛んで消滅した。

 

―幻想郷に迷い込む少し前。
スズラン荘の住民達にはそれぞれ、
個性的な「武器」と「能力」が振り分けられた。
その能力は彼の『アーサー王伝説』に登場する、『円卓の騎士』に由来する。
無論紫電も例外ではなく、彼には『ケイ』のクラスに該当する能力を与えられた。
その能力の大まかな概要は、
「炎や電撃のような属性を強化する」
というもの。
敗者復活戦にてながさんの放った『光の波動』を前に発動した能力である。

 

本来、護身用として使われるスタンガンがこれほどの威力を誇るのは、
紫電の『ケイ』の能力が最大の要因と言っても何らおかしくはない。
だが、

 

いざ放たれた電撃は予想を遥かに上回る大きさと弾速で魔理沙に向かって飛んでいった。
紫電はせいぜい牽制程度の電撃を込めたのにも関わらず、だ。

 

「なっ…何なんだ今のは!?
こんなの私聞いてないぜ!」
予想外の出来事に呆気に取られていた紫電だが、頭上から聞こえる魔理沙の声で我に返った。
声の調子から察するに、いきなりあれほどの攻撃を仕掛けて来るとは思っていなかったのだろう。
「やかましい!こっちも空飛ばれるなんて聞いてねーよっ!」
そう返しながらも、左手のスタンガンは再び蓄電を開始していた。

 

紫電の戦闘が始まって3分が経過しようとしている。
箒を乗り回し、空中を縦横無尽に飛び回って魔法を展開する魔理沙
対するのは、トライデントで襲い来る弾幕を弾きつつ、負けじと電撃の包囲網を造り出す紫電

 

「…あぁもう早いとこ当たれってのっ!!」
自在に空を飛び回り自身の攻撃を避ける魔理沙に苛立ちを覚えながら、スタンガンに蓄積させた電撃を怒涛の勢いで放つ紫電
紫電の放つ電撃は放射状の為範囲が広く、当たれば大ダメージは必至。
だが、それはあくまで『当たれば』の話である。電撃は幅が広いが直線的、かつ比較的低速。
発射中に腕を振ればある程度の補完は出来るが、自在に宙を舞う魔理沙には無意味に等しい。
魔理沙はそれをことごとく回避し、反撃をすべく力を込める。
「そんな攻撃当たらない…ぜぇっ!」
「またこれかよ面倒くせぇ!」
彼女の掌から放たれた大小様々な弾幕に舌打ちをしつつも、
トライデントを力任せに振り回して大きい弾を弾き飛ばし、
バレーボール大の小さな方は反撃ついでに電撃で撃ち消す。
戦況は既に『弾幕合戦』と化していた。

 

「…予想的中。」
「む、どうしたユキ。ずいぶん楽しそうだが?」
そう問いかけられたユキの口元は、
GAMEの指摘どおり、まるで
『何か面白いモノを見た』様に楽しげに笑みを浮かべていた。
「いや、さっきから僕の中にあった違和感がついさっき解消されてね。」
ユキは二人の戦闘から目を逸らさない。
「君達。紫電を見てて、何か違和感を感じないかい?」
ながさん「…違和感…?」
「いや、これと言った違和感は感じないが。」
突然のユキの問い掛けに、スズラン荘の住人達は首を傾げた。
中には目を細めて観察する者もいた。だが、
「あれか?服装が変わってんのか?」とゼロ。
オッドアイ説を提唱してみる。」と白秋。
「ぶっちゃけあの可愛い魔法使いの人見てました。」とアステル
「戦いがいきなりハイレベルすぎて何がなんだか。」とスラ。
これといった答えは出てこなかった。

 

ここである一人が、不安げに声を上げた。
「ねぇ、外れてたら悪いんだけど…。
シデンの攻撃ってあんなに強かったっけ…?」

 

声の主であるチェシャは、前述した敗者復活戦にて、ながさんの放った光の波動をモロに喰らう筈だった。
しかし立ち位置が幸いし、
紫電(の電撃)を盾にする形で難を逃れた人物である。
そのチェシャが、現在位置から遠目に見ても分かる程に、紫電の電撃は強大化していた。
「ビンゴ。だがあと一つ、決定的なのがある。
何か分かるかな?」
「…トライデント、だな。
シデンの能力は属性を持つものにしか適応されない。なのに今のあいつの槍は『何故か』帯電してる。」
「良いところに目を付けたね、ゼク。正解だ。」
そう言ったゼクの説明どおり、
紫電のトライデントは、柄の途中から穂先にかけて紫の稲妻が走っていた。
見る限り、トライデントに機械的な仕掛けは見られない。
少なくとも、トライデント自らが放電している、と考えるのが妥当だろう。
「…んで?結局何が言いたいん
だよユキは。
勿体ぶってないで説明しろよ、回りくどい。」
「そうだね。別に隠す理由も無いし、答え合わせと行こうか。」
しびれを切らし、若干声を荒げた二牙の催促にこれといった反応もせず、
ずっと二人の戦闘を観戦していたユキが振り向く。
「どうやら僕らは、『属性』という概念を手に入れたらしい。」

 

…沈黙。
ユキの発した、余りにも不可解な返答に、住人全員は唖然とした。
「…はい?」
「ぞ、属性…?」
G「ポケモンで言うタイプ的な感じか。」
「そ。そんな感じ。今紫電に宿ってるのは『雷』。
そして紫電の『ケイ』の能力。
ここまで言えば分かるかな?」
「あーなるほど、
アイツの能力は『属性強化』。
自分に宿った属性をスタンガンとトライデントに流して、
さらに『ケイ』で火力を底上げしてる、と。」
じゃぶが納得した様子で手を叩く。
「ご名答。まぁ詰まる所、彼は『属性』のデモンストレーションをしてくれた訳だ。
今回の戦闘に彼を推薦した甲斐があったよ。」
「なぁ、俺らに属性があるってのは分かった。
なんでユキがそれにやたら詳しいんだよ?」
満足げに話すユキにムービンが問う。
だがユキは、わざとらしく肩を竦めて見せた。
「さぁね?まぁ、恐らく僕がこの世界での高田さん代わりの解説役、という事だろう。」
「おお、メタいメタい」

 

「…埒が空かん…」
試合開始から約10分。
紫電魔理沙の戦いは、いつまでたっても決着が着かない。
ひたすらトライデントを振り回し続け、
疲労した右腕を太い縄のようにぶらつかせて紫電が呟く。
一方の魔理沙は相変わらず箒を操り、その上に仁王立ちで立っていた。
「いやー…まさかここまで持つとは思わなかったぜ。
意外とやるな、シデン。」
「…そりゃどうも…」
溜め息をつき、腕を組んで称賛してくる魔理沙
だが約10分間、ほぼトライデントを振り回しっぱなしで体力を消耗している紫電には、
それを聞くだけで精一杯だった。
紫電の右肩は、今にもボロッと音を立てて外れそうなほど悲鳴を上げている。
「…でもな、一つ教えてやるぜ。
弾幕はパワー』!
今からそれを叩き込んでやるぜっ!」
そう叫ぶなり地面に降りる魔理沙
そして、彼女の懐に入っていた八卦炉を大きく空に掲げた。
八卦炉に小さな光が灯り、
さらにその光は火花を散らして音と共に巨大化していく。
「…明らかにヤバイよねアレ。
破壊光線的な何かが飛んでくるよねアレ。
喰らったら消し炭じゃ済まないよねアレ。」
紫電の頬を冷や汗が伝う。
すっかり疲労していた紫電も、目の前の魔法使いがしようとしている事をすぐさま理解できた。

 

「ちょっ、ちょっと魔理沙!?あんた何を―」
八卦炉を掲げた魔理沙を見て、
霊夢も彼女が何をしようとしているのかを理解したのだろう。
慌てて霊夢が制止に行こうとしたが、突然現れた標識に行く手を阻まれた。
「…紫、何のつもり?」
先程まで隣にいた紫を横目で睨み、
ドスのかかった声で唸る。
「今の私達は単なる『観客』。
観客が選手に手出しするのはどうかと思うけど?」
しかし紫は、霊夢の全力の威嚇も空しく、さも当然だ、と言わんばかりに言い放つ。
「~~~ッ、だからってねぇ!いくら能力を持ってるからってあっちは生身の人間よ!?
『アレ』の威力位、あんたも分かるで―」

 

ユキ「シデン!スタンガンにありったけの電気を注ぎ込め!」

 

「!?」
目的は分からないが、霊夢の行く手を阻む紫をどうにか突破しようと、
思い付く限りの言葉をマシンガンの如く撃ち出して紫を説得しようとした矢先。
――その声は、スズラン荘の住人の方から聞こえた。
「…それに、あちら側も秘策ナシ、って訳じゃ無さそうだけど?」

 

「…は?」
ほぼ確実に回避方法は無い。
そう高を括りながらも、どうにかして彼女の撃とうとしている『必殺技(多分)』の対処をすっからかんの脳ミソで考えていた紫電の頭の中に、突然の叫び声が木霊する。
この声は多分ユキだろう。
…いつも冷静なあいつが叫ぶなんて珍しいな、
なんて呑気に考えていると、次の叫びが再び彼の脳内に響く。
「詳しい説明は省くが、
今の君の攻撃は大幅に強化されている!
『ケイ』をフル活用すれば、彼女の攻撃を防げるかもしれないぞ!」
紫電「!!」
その一言で紫電の思考は、再びフル稼働を始める。

 

確かに少し横に走ったり跳ね退いたりした位では余裕で射程範囲内、
回避を始めた頃には目鼻の先まで攻撃が届いているだろう。

 

―ならば、攻撃を『避ける』のでは無く。
『攻撃に攻撃をぶつければ』良いのではないか?

 

初撃の時に感じた違和感。
いつの間にか電撃を帯びている槍。
そして―――ユキの言った、
『大幅に強化されている自分の攻撃』。

 

「…なるほどねぇ。
『攻撃は最大の防御』とは良く言ったもんだ。」
気付くと、紫電の先程までの疲労はどこへやら。
いつの間にトライデントをしまい、
代わりにスタンガンを右手に構え、
そして、不敵に口元を歪めて。
ただ静かに笑う。

 

「…へぇ。あたしの攻撃を防ぎきる算段がついた、って顔だな。」
既に八卦炉へのエネルギーの充填を終えた魔理沙は、腰に空いた手を当て、
紫電と同じように笑っていた。

 

魔理沙が浮かべるのは、勝利を確信した勝者の笑み。
紫電が浮かべるのは、狂気を孕んだ静かな笑み。
両者の微笑みは、この戦いの終わりを告げていた。

 

「マスタァァァア…ッ」
魔理沙八卦炉が黄色みがかった光を帯び、輝く。
「ぬぅうううううっ…」
対する紫電も左手を右手首に添え、
全神経を黄緑色に淡く輝くスタンガンへ注ぐ。
…すると程なくして、紫電のスタンガンの輝きが勢いを増し、今か今かと解き放たれる瞬間を待ち望むように、紫色の火花を散らす。

 

―――そして。
「―スパァァァァアクッ!!」
「―おるぁぁぁぁああッ!!」
ズガガガガァンッ!!
金色の光と紫の雷光。
二本の光の柱は凄まじい轟音と共に激突した。
…激突の際に生じた衝撃波が辺り一帯を襲ったのは言うまでも無く。
「わ…私の神社がぁぁあっ!?」
衝撃波の矛先の1つ、博霊神社の主である霊夢の悲鳴は轟音により掻き消され、誰の耳にも届きはしなかった。